彼女はわたしの憧れの人で。
友人に声が似ているといわれたときは、それだけでなんだか得意な気分になったりした。
だから自分を捨てることに躊躇しながらも、わたしはあの人の手をとったのだ。
「わたしは・・・・わたしは『ラクス・クライン』よ」
はっきりと、目の前の人物に向けて言い放った。
そう言い切った瞬間、気のせいかもしれない、けれど少女には彼女の瞳に哀れみの色が浮かんだように見えた。
それが何故だか無性に許せなくて。
きつくきつく手を握り締める。
「いいえ、貴方は『ラクス・クライン』ではありません」
「そんなことない!」
弾かれるように叫んだ。
「わたしはもう『ラクス・クライン』だもの!みんな認めてるわ!!」
そう、誰もがわたしを『ラクス・クライン』と呼ぶ。
目の前にいる彼女よりも、わたしはみんなが望む『ラクス・クライン』であることができる。
・・・・・なのになぜだろう。
こうして叫ぶたび、彼女の瞳に捕らわれるたび、自分は紛い物だと追い詰められるのだ。
「あなたはもう要らないのでしょう?今まで通り何処かでひっそりと暮らしていれば
いいじゃない!」
そう、風の噂で聞いた。
かのラクス・クラインは地球のどこかでひっそりと愛する人と暮らしていると。
「わたしは貴方になったの。世界を平和へと導いた、プラントの歌姫」
そう、わたしはもう『ラクス・クライン』なのだ。
もう今更もどれない。
もうミーア・キャンベルははいないのだから。
わたし個人のちっぽけな存在はきっと誰の心にも残らず消えてしまった。
だからこそ、わたしは『ラクス・クライン』でなければならないのだ。
滑稽だと笑われても、それでもわたしは舞台を降りることは出来ない。
「わたくしに人々を導くなどと大それたことは出来ません」
一気にまくし立てた後、長い沈黙を破って彼女が口を開いた。
いったい何を言っているのだろうか。
そして酷く切なそうに続ける。
「けれどそう・・・・・『今のラクスクライン』は導いているかもしれません」
自分に向けられた、強くまっすぐな瞳に体が動かなくなった。
「それはとても恐ろしいことなのですよ」
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