―――――――上陸したかったんじゃないのか。でたろ、許可。 ・・・上陸・・・したかったのだろうか。 自分にはもうこの地に行く当てもないというのに。 許可が出て、俺はどうするつもりだったのだろう。 Time ただぼんやりと、あてもなく歩き続ける。 にぎやかな町並み。 あちこちで聞こえる笑い声や、小さな子供の泣き声に、まるであの頃に帰ってきたような 錯覚に襲われる。 ・・・・・あぁ、あの店まだあったんだ。 よくあそこでマユにアイス奢らされたな。 その先の店でよく父さんが母さんの機嫌取りにケーキ買ってたっけ。 母さんは向こうの店でよく俺たちの服を見てて。 それから、あの向こうで・・・・・・・ 「さっさと返せと言ってるだろう」 響き渡る鋭い声に、現実へ引き戻される。 ふと見ればある一点に人だかりができていた。 そこから聞こえるやけに威勢の良い声に反応し、 なんとなく興味を惹かれ覗いてみる。 「あぁ?なんのことを言ってるのかさっぱり分かんねぇなぁ」 「ふざけるな、さっきそこで婦人の財布を掏ったのをこの目で見たぞ」 見るからに柄の悪そうな男とそいつに対峙するように向き合っている帽子を深くかぶ った少年。 いかにも一発触発な雰囲気だが周りにいる者たちは誰もが皆止めようとすることもなく 我知らずな顔をして歩き出し、幾人かは遠巻きにその様子を傍観し続けていた。 「勝手ないちゃもんつけてんじゃねぇっ!」 短気な男だ。たいした押し問答もしていないだろうに目の前の少年に掴み掛かろうと動いた。 しかしそれを待っていたかのように少年は男を軽くいなし、あっさりと男を地面に伏せさせる。 (へぇ・・・・・・) 細身のわりによくやると感心していると、目の端に少年に静かに歩み寄る男を捉えた。 少年の意識はいまだ這いつくばっている男に向けれ気づく様子はない。 その男の懐に鈍く光るものを見つけ、ぼんやりと傍観している場合ではないと気づく。 慌てて駆け出したものの、駄目だ、間に合わない。 せめて致命傷は避けてくれることを祈りながら叫んだ。 「おいっ、後ろ!!」 少年はその掛け声に、はっとした様子振り向き、軽くした打ちしたように見えた。 あまりに男が至近距離にありすぎでまともに避けることは難しいだろう。 しかし彼は軽く後ろに体を倒しながらギリギリのところでそれを避け、そのまま倒れる 勢いとともに男のあごを蹴り上げた。 その機敏な動きに思わず唖然として立ち尽くす。 が、背中から打ちつけまいとけりの勢いで向きを反転させた少年に向かい慌て駆ける。 少年の体はふわりと腕の中に納まった。 抱きとめた体は思っていたより軽い。 そして抱きとめた瞬間に鼻を掠めた柔らかな匂に。 腕にあたるやわらかな感触。・・・・やわらか、な? 「?!おんっ」 思わず体を離した、が、少女の体が冷たいアスファルトに吸い込まれてしまうことに気づ き慌ててその手を掴んだ。 体中の血液という血液が沸騰したように熱い。 今自分はとんでもなく赤い顔をしてるだろう。 この場に友人がいなかったことを深く感謝しながら軽く息を吐く。 腕を掴んだ反動で少女の帽子がはらりと落ちた。 その中に隠れていたのは鮮やかな金髪。 そして驚いたようにこちらを見上げてくる琥珀の。 「お前?」 「アスハっ」 「ほらっ」 投げられた缶を片手で受け取る。 人気のない公園。 夕日に染められた遊具たち。 その光景は酷く物悲しい気持ちを誘い出す。 目の前の少女はベンチに一人腰を掛けて自分の缶に口をつけながら座らないのかと尋ね てきた。 「なんであんたがここにいるんだ」 周りに誰もいなかったせいか、その声はやけにあたりに響いた。 彼女は一瞬キョトンとしたように目を瞬かせ、軽く笑って言った。 「ただの散歩だよ」 こちらはなんとも無礼なもののいいようだったが、彼女は大して気にした様子もなく再び 手の中のソレに口をつけた。 その態度になぜか酷くイラついて。 どす黒い感情が渦を巻き始め、そのかおを苦渋の顔で歪ませてやりたくなった。 「一国の代表ともあろう御方が、こんなところで油を売ってていいんですか?」 丁寧な口長で、たっぷりと嫌味を込めながらいってやる。 ゆっくりと、見下した笑みを口に貼り付けて。 けれど返ってきたのは予想外の反応。 「・・・・わたしは御飾りだからな」 笑って、いた。 船のときと同じく突っ掛かってくると思っていたのに。 ただ瞳の奥にほんの少し悲しみを抑えて、微笑んでいた。 しばし呆然と彼女を見つめていると、また違う微笑でこちらを見ていた。 「それに今は『代表』じゃない、『カガリ』だ」 穏やかに微笑む彼女がいったい何を言ってるのか分からなかった。 しかしぼんやりと、目の前の女のファーストネームがそんなものだったことを思い出した。 そして彼女が最後の一口と缶を傾けたとき、「鐘」が鳴った。 子供たちの帰りを告げる鐘。 もはやこの公園に子供たちの姿はなかったけれど。 昔はよくこの鐘を聞いていた。 その音は酷く懐かしいもので、昔となんら変わっていなかった。 ただ違うのは当たり前のように用意されていた温かい食事と、当たり前のように自分の 帰りを迎えてくれていた家族がいないことだけだ。 その鐘の音に反応するように、目の前の女は公園の時計を見て口を開いた。 「まぁ、お飾りでもそろそろ戻らないとな」 そういいながら、勢いよく立ち上がって、もう中身のない缶を少し距離のあるゴミ箱へ 向かって放り投げた。 吸い込まれるように入っていったそれに満足げな笑みを浮かべる。 振り返ったその幼い笑顔に、何故だか少し戸惑った。 「じゃ、今日はありがとな、助かった。」 素直に礼を言われ、手を差し出される。 一瞬からだが反応したが、その手を握り返しはしなかった。 握り返すことを自分は許せなかった。 琥珀の瞳から逸らすように、ふいっと顔を背ける。 横目で少しその手の持ち主の様子を伺ってみれば 彼女は悲しそうな、少し困ったような顔をして微笑んでいた。 そして、手を下ろしゆっくりと口を開く。 「なぁ、シン。あの日あのとき来るまでの日々も、お前にとっては奇麗事で塗り固めら れた偽りの世界だったか?」 真っ直ぐ見つめてくる琥珀の瞳に、息が詰まった。 奇麗事だとののしった世界。 けれどそのなかで、そのなかだからこそ、自分は家族と暖かな生活を過ごし。 友人と小突き合い、笑いながら『平和』に過ごしていて。 『あの日』が訪れなければ俺は、きっとこの国を、オーブを・・・・・・好きだった。 『あの日』が訪れなければ・・・・ 何も応えられず、拳を硬く握り締めた。 その沈黙をどうとったのだろうか。 カガリ・ユラ・アスハは背を向け、静かに歩き出した。 視線を落とし、地面を睨み続けていた自分には分からない。 彼女がどんな顔をしていたのか。 ただ、去っていく足音が聞こえなくなっても尚、自分はその場を動くことができなかった。『あの日』が訪れなければ・・・ けれど訪れたのだ、『あの日』は。 そして全てを奪い去っていった。 なにもかも。 「・・・・・奇麗事なんだよ」 吐き捨てるように、自分に言い聞かせるようにその言葉を口にしながら、 終わりと始まりの場所へ足を向けた。 ....endシンがキラと出会う前くらい?まぁ、カガリにそんな暇があるとは思えませんが(苦笑) ・・・・・・文才が欲しい。(泣) それにしても種の初SSが(拍手除けて)アスカガじゃないって・・・・・(苦笑) とりあえず、シンにもアスランやキラのようにカガリのことを男と間違えて欲しくて 書きました。(それだけか!) シンの言っている「いなくて良かった友人」とはもちろんヨウランのことです(笑) 2004.12.21