温かい国だった。

全てが上手くいっていたわけではないけれど。
差別も無く、みんな笑っていられた、温かい国。




それが一度崩れ去ったとき、もう二度とこんなことは無いようにと・・・・



それが裏切られたとき、何人のものがもう一度それを信じてくれるだろうか
















からっぽの国の小さなお姫様






















地の焼けたにおい。

鼻をえぐるような匂いに胃の中を胃液から全て吐き出してしまいたくなるような
感覚に襲われる。






           酷いものだった。





避難勧告も出さないまま開戦したのだ。
先の大戦に比べても被害は予測の上でもおびただしい。
道路、ビル、住宅・・・・・・人々は知らずいつも通り生活していたのだ。
何も知らず、知らされず。

見て回れば回るほど、涙腺が緩んでいく。





もはや足場も安定しないそこを瓦礫を避けながら歩いていると、ゆらりとした
影が目の前を遮った。



若い女が一人、その場に立っている。

20代後半ぐらいだろうか、黒い髪はぼさぼさで、身につけている衣服はところ
どころ破れ、焦げている。






「・・・・・ぇして」


「え?」





か細い声は耳に届いてこず、何と言ったのか問おうとしたその刹那。
女は勢いを殺すことなく掴み掛かってきた。







「返してっ!!私の子供を!夫をっ!!返してぇ!!!」






力の限り叫ぶ女の手はカガリの体をがくがくと揺さ振った。


カガリは揺さ振れながら呆然と女の顔を見つめる。

血のように赤い瞳
憎悪に塗られた瞳
わたしはこの瞳を知っている         


深い悲しみの中で揺れる瞳を。


『俺の家族はアスハに殺されたんだっ』




いつの間にかSPたちが掴み掛かっていた女を押さえ込んでいた。
女は押さえつけられても尚、ぎらぎらとした目をこちらに向けている。







            あぁ、これはわたしの背負うべき罪なのだ。





彼女を解放するよう合図をおくる。
腰を屈め、彼女の瞳を見つめながら一言呟いた。




「すまない」



悲痛に顔を歪めながらカガリは謝罪を口にした。
こんな言葉だけでは到底許されはしないだろう、わかっている。
SPによってその場を追いやられながら、女はやはり罵倒し続けていた。



「・・・・・」


「カガリ様」


「なんだ?」




訊ねながらも本当はわかっていた、気づいていた。





「市民の何名かがプラントへの移住を希望しております」


「・・・・・そうか」




リストを見ればそれはほとんどコーディネーターとして登録していたものたち
ばかりだった。
夫婦やその者の家族は別だが。
当然といえば当然である。
停戦になったからといって、移住ができるほどプラントもナチュナルを受け入れて
はくれていないのだから。

(こんな危険な国にいるよりも同胞たちのいる国のほうが良い・・・か)





「はい・・・・そして、その・・・・・他にもとにかくこの国を出たいという
者たちが・・・・」




言いずらそうに男が口を開く。
遠巻きに多くの視線を感じる。

暗く渦巻く冷たい鋭さを持った視線たち。



胸を強く締め付けられる。
痛い いたい イタイ・・・・・・・・






「わかった。とにかく交通機構の復興を急げ。プラント、他国・・・・そうだな、
スカンジナビア王国にでも交渉を」



凛とした声で告げる。
その毅然とした姿に報告を口にした男はわずかにほっとしたようだった。
その男が背中を見せ去っていく姿を見届けてから、カガリはゆっくりと空を
見上げた。

そして自分の後ろに控えている付き合いの長い男の名を呼ぶ。






「なぁ、キサカ・・・・・・・・」





ポツリと零すように。
そして大柄な彼の方を振り向いて、そして笑った。



崩れ落ちてしまいそうな微笑。









「オーブ、からっぽになっちゃうかな」









彼女は笑っていた。
目を閉じて、歯を食いしばって、手を握り締めて。

頬に幾つもの雫を流そうと、天を仰いで、笑っていた・・・・否、笑おうとしていた。




ぐしぐしっと目元を手で擦って、彼女は真直ぐ前を見据える。
そして顎を引き、胸を張って、琥珀の瞳を揺らさず、しっかりとした口調で口を開いた。








「それでもわたしはこの地とともにあって、この地のために生きるんだ」





















end


                                        く、暗い・・・ってか痛い!!でも書きたかった話です。                                   あんな状態で開戦したもんだったから、無印のころよりも絶対被害が                                                多かったんだと思うんですよ。それで罵倒をあげる人もたくさんいるんじゃないかと。                           カガリにはそれを乗り越えて欲しいなと思います、っというか受け入れてあげて欲しい。                           運命ではカガリにたくさんの試練がかされてますね。これからが(というか運命終了後)                             カガリの一番の成長どきなのだと思います。辛いだろうけどがんばって欲しいです。                                                                     2005.9.15