彼女の口から流れるメロディーが最後の一節を紡ぎ終える。 そっと周りを見渡せば、先ほどまであれほどはしゃいでいた子供たちは穏やかな顔を して眠りについていた。 「ラクス」 遠慮がちに掛けられる声に、静に振り向く。 その姿を捉え、彼女はふわりと微笑を返しながら子供たちを起こさないように気をつ けてゆっくりとその人物へ足を向けた。 ここから始めよう 辺りはもう薄暗い。 これ以上暗くなると、彼の髪はその色に溶けていきそうだ。 潮風が優しく頬を撫でるのをラクスは目を閉じて感じながら、突然尋ねてきた彼へと 声を掛けた。 「お久しぶりですアスラン、今日はカガリさんと一緒ではないのですか?」 ちょこんと首をかしげるように訊ねれば、彼はほんの少し不機嫌そうな顔。 それだけでもう、なんとなく彼がここに来た理由が分かってしまった。 「カガリは今、婚約者であるユウナ・ロマと急な食事に出かけています」 「まぁ、そうですの」 彼らしくない、少し棘のある言い方に苦笑してしまう。 いや、「彼らしくない」と言っては語弊があるかもしれない。 「わたしの知らない」と言った方が正しいだろう。 ラクスは心の中で訂正した。 こうやって二人でのんびりと歩くのはどれくらいぶりだろうか。 二人だけ、というのはずいぶんと久しい気がする。 「先ほど・・・・」 ぽつりと零れ落ちた声。 思いにふけっていて反応が少し遅くなってしまった。 微妙なタイミングで彼の方を向く。 「先ほど歌っていた歌は新しい歌ですね」 彼の言葉に思わず目を丸くしてしまう。 そんなわたしの反応に、彼は苦く笑って答えた。 「それくらいは分かりますよ、何度もコンサートには行きましたから。 ・・・・・その、時々寝てしまうこともありましたが」 婚約者という立場であったから、コンサートを開くたびに「ぜひ聴きにきてください」と チケットは毎度渡していた。 そして彼は律儀にもできうる限りきてくれた。 本人は時々と言っているが、殆どは最後のほうまで起きていたことがなかったように思う。 バツの悪そうな彼の顔を見ながらくすくすと笑っていると、再び彼が口を開いた。 「昔歌っていらっしゃった歌は、もう歌わないのですか、あの・・・・・」 「『静かなこの夜に』?」 正直曲名までは覚えていなかったのだろう、あまり自信なさげに頷く。 確かにあの歌は戦争中のあのときからもう口にしていない。 ラクスはにっこりと笑って答えた。 「あれはアスランへのメッセージでしたから」 そうするりと伝えれば、彼は何を言われたのか分からないようで、目をぱちぱちとさせて こちらを見つめていた。 そんなアスランを見てラクスはまたクスリと笑いを漏らす。 「そしてもう、伝える必要はありませんもの」 変わらず困惑したような顔を浮かべる彼に彼女はにっこりと微笑んだ。 歌姫と言われていた頃のような、無邪気な少し幼い笑顔。 そしてパンッと手を合わせて口を開いた。 「そういえばアスラン、わたくし一つお願いがありましたの」 突然のラクスの言葉にアスランは再び目を丸くする。 「はぁ・・・なんですか?」 ハロのことだろうか、とピンクのハロに目を向ける彼に、ラクスはふわりと笑って 人差し指を彼の唇に当たるか当たらないかのところへ持っていく。 いきなりのことにアスランは少しのけぞった。 「それです」 「それ?」 「敬語を止めて欲しいんですの」 パチクリと彼が瞬きする。 今日の彼はこんな顔ばかりだ。 そういえばこういった顔は婚約当時もよく見ていた気がする。 いつからかそんな顔すらも見なくなったけれど。 「アスランはもう、わたくしを見てくれるでしょう?」 その言葉に、アスランがわずかに目を見開いた。 風が二人の間を通り抜ける。 一時の間。 彼は穏やかに微笑んだ。 「あぁ、そうだな」 ほら、あなたはこんなにも綺麗に笑う。 わたしはきっとそんな風に笑って欲しかった。 そして自分もそんな風に笑いたかった。 おかしな話、婚約が解消され、お互いに大事な人ができてようやく、覆い隠すような 薄いベールを捨て去ることができたのだ。 対になる遺伝子。 そのことを意識したことは無かったけれど、やはりわたしたちは似ていたのかも知れない。 だからこそ、一歩が踏み出せなかったのかもしれない。 「わたくしも、アスランのことが見えますわ」 そうして彼に負けないくらいの笑顔を返す。 これからは見たこと無いいろいろな彼が見れるだろう。 怒った顔、拗ねた顔、子供のように笑う顔。 わたしもきっと見せるだろう、彼の知らない一面を。 そしてお互いに知っていくのだ。 それぞれの愛する人の傍で。 あたりはもう暗く、星が瞬き始めている。 波の音だけが響く静かな夜に、ようやく二人は会うことができた。 ...end決してアスラクではありません!!でももし 「アスラクにしか見えないよ〜」と言った意見がありましたら どうしよう、章力ないからなぁ・・・あうあう、アス→カガ ラクス→キラ のつもりなんですよ、本人は。 『静かなこの夜に』ですが、わたし的にはアスランをイメージしている 曲だと思ってます。『思い出が優しく』『今遠くても』など、ここら辺 は戦争が始まって離れていった二人の心を感じさせる気がするんですよ わたしは。『届けたい』『抱きしめる』のところも、無印でラクスは なんどか手を差し伸べようとしてるんですよね、アスランは拒んでしまいましたが。 なんだか長ったらしくなりそうなのでここで、いつかCP論でも書こうかな。 2005.10.02