あれ?と思ったときには世界がぐるぐると回っていた。 無重力とはまた違った浮遊感。 意識が薄らいでいく中で、誰かに名前を呼ばれた気がした。 赤い実 「・・・・ま・・・リ様・・カガリ様」 まどろみの中で名前を呼ばれ、ゆっくりと覚醒する。 ぼんやりとする視界の向こうで、よく見知った顔がホッとしたように目を緩めた。 唇に塗られた紅がやんわりと弧を描く。 「まったく、お転婆姫が急に倒れたりしたものだからみんなびっくりしましたわ」 「・・・エリカ・・私?」 きょろきょろと辺りを見回す少女に、エリカは苦笑を漏らした。 「宇宙に長期で出るなんてことありませんでしたから、なれない環境に体調を 崩されたのでしょう」 本人はあまり自覚してないのかもしれないが、おそらく精神的にも負担が強く かかっていたのだろう。 父親を敬愛していたこのお姫様がそう数日で父のしを乗り越えられるわけがないし、 国民を愛するこの娘が生きるか死ぬかの戦へ兵士たちを送り出すのだ。 なれないことに心も体も悲鳴を上げていたのだろう。 「まぁ、ゆっくり休んでくださいな。実は言うとクサナギのナチュナルクルーは 大部分そんな感じです」 「・・・・それはまずいんじゃないのか?」 カガリはわずかに眉をひそめた。 いざ戦闘が始まってクルーが皆ダウンしているだなんて洒落にならない。 そんな心配はよそに、エリカはあっさりと言い放つ。 「大の大人ですもの、いざとなったら倒れていても叩き起こしますわ」 それにしばらくは戦況も落ちいているでしょうし・・・・と続ける。 エリカの言葉を耳に入れながら、カガリはふとした違和感を感じた。 「エリカ?此処ってクサナギか?」 「いいえ、エターナルです」 お姫様はパチクリと目を瞬かせた。 「エターナル?」 「あら、カガリ様はエターナルでお倒れになったんじゃないですか」 「そう・・・・だっけ」 そういわれればそんな気がする。 いや、そうだ、少し時間ができたからラクスの部屋でお茶でもしようという話 になってラクスのところに行こうとして・・・・ 「うわー、わたし廊下で意識失ったのか」 ただゆらゆらと漂う自分・・・・・なんだか間抜けだ。 「エリカが運んできてくれたのか?」 エリカならば幾分知った仲なのでたいして恥ずかしくないが、発見したのが 知らないエターナルクルーなら、・・・嫌だ、恥ずかしすぎる。 しかし恥ずかしくとも礼は言いに行かねばならない。 「いいえ、第一発見者はアスラン君です、運んでくれたのも」 そして何を思い出したのか、くすくすと笑い始めた。 怪訝に思って何がおかしいのか訊ねた。 「なんでもありませんわ、後でアスラン君にお礼を言いに行ってあげてくださ いね、心配してさっきまでついていてくれたんですから」 「あ、あぁ」 そう切り返されて心持頬が熱くなる。 アスランが心配してくれたことはなんだか嬉しくこそばゆい。 彼もまた顔見知りであるし、キラの親友ということもあって恥ずかしくは無いが、 父親に撃たれ落ち込む彼を慰めに行って抱きしめられたあの日を思い出す。 見た目によらずしっかりとした体をしていた。 また自分はあの腕の中にいたのだろうか・・・・なんだか妙に意識してしまう。 頬を染め、ぼーっとしているカガリに目を細め笑いながらエリカは「仕事があ りますので」と部屋を後にした。 しっかりと体を休めることを釘刺して。 エターナルの廊下を歩きながら、エリカは再びクツクツと笑いを漏らす。 頭をよぎるのは紺色の髪をした少年。 普段物静かで大人びた印象を持つかれが慌てふためく姿は今思い出しても口元が 歪んでしまう。 『エリカ・シモンズ主任っ』 『あら、アスラン君?』 エターナルの整備士と話し合いを終え、いざクサナギに帰還しようというときに、 酷く切羽詰った声で引き止められる。 見れば翡翠の瞳の少年が焦った様子で呼びかけてきていた。 自分の知るいつもの少年らしくない余裕の無さに、軽く驚きを覚えながら、彼の 腕の中に納まっている人物に目を丸くした。 『カガリがっ、声をかけようとしたら、あの、意識が無くてっ』 必死のあまり言葉がバラついている。 それでも忙しなく口を動かす彼に、エリカは珍しいものを見るかのように視線 を固定した。 見て分かるほど混乱している彼の頭の中は、今すごいことになっていそうだ。 『落ち着いてアスラン君、とりあえず医務室に連れて行きましょう』 その言葉にアスランは小さく「あっ」と漏らして頬染めた。 まったく考えつかなかったのだろうか、恥らう様子を見せながら「そうですね」と言い 移動をはじめた。 倒れている者がいれば医務室へ。 当たり前でごく常識的なことのように思えるが、その判断ができないほどに彼は 動揺していたのだろうか。 コーディネーターとはいえ決して病気にならないわけではない。 ただアスランの周りには「倒れる」なんて言葉は無縁なものばかりであったし、 無意識のうちに彼女もまたそうだと決め付けていのだ。 呼びかければいつでもあの温かい笑顔を返してくれると・・・『疲労ですね、二、三日ゆっくりと休めば大丈夫でしょう』 『そうですか・・・』 あからさまにホッとした気配が知れた。 エリカはなんだか笑い出したくなる。 『そんなに心配だった?』 『え・・・いや、あのっ・・・・・』 『ふふ、ありがとう』 頬を赤く染め、アスランはあうあうと俯いてしまった。 普段の大人びた彼の姿は欠片もない。 しかし今こうして頬を赤らめる少年の方がずいぶんと愛らしく、微笑ましい。 この殺伐とした戦場という場で、温かさを感じさせてくれる。 『あの、カガリについていてもよいですか?』 優しい瞳で彼女を見つめながら、アスランは遠慮がちに口を開いた。 断る理由もない、むしろ彼女は喜ぶだろうと思い、あっさりとOKする。 まぁ、残念ながら整備員の方からお呼びがかかってしまい、彼女が目を覚ます 前に部屋をあとにすることになったのだが。 あのときのあからさまに行きたくないと全面的に出した顔も笑いを誘った。 そして目覚めた時のお姫様の反応。 「二人とも初々しいこと」 お互い自覚があるのか無いのかいまいち分からない。 それがまた可愛らしいではないか。 頬を染め分かりやす過ぎる反応を見せる二人を思い浮かべ、再び口元が緩む。 二人の恋がいつか実るといい。 ナチュナルとコーディネーター。 そんな壁はけして乗り越えられないものではないのだ。 自分だってナチュナルである夫がいる。 彼はコーディネーターである自分を受け入れてくれた。 あのお姫様が拒絶するなんてことは、まずありえない。 「さて、お姫様のお目覚めを王子様に伝えに行きますか」 彼がいるであろうドッグに足を向ける。 クサナギに戻ったら戻ったらあのやかまし三人組に話題を提供でもしようか。 また顔を真っ赤に染めあたふたとする彼が見れるかもしれない。 同じぐらい顔を赤くしたお姫様も見れるだろう。 とりあえずまずはヤキモキしているであろう彼にお姫様の無事を伝えるために エリカは足を進めた。 end...まぁ、問題は他にも身分の違いとかもあったりする訳ですが。 それにしても、エリカさん書き難い。(汗) この話は前サイトからこちらを発見され、尚且つキリの良い数字を踏まれたami様に捧げます。 リクエストは「種」時代のアス→←カガとのことだったのですが・・・ ・・・・・・・どこか何か違うような(汗) ちゃんとリクエストを消化できたかどうか不安ですが捧げさせていただきます。 リクエストありがとうございました! 2005.10.16